大判例

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東京地方裁判所 昭和42年(借チ)1004号 決定

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔決定理由〕<証拠略>を総合すると、右建物は昭和二年頃建てられた二戸建一棟の一戸で、同時に建築された他の一戸は既に建替えられていること、そして前記建物は柱に根つぎをするなどして補修が加えられ、現在においては居住に危険を感ずるような状態ではないが、外廻り土台はかなりの腐蝕が見られ、床構造の歪曲、建物の傾斜等の状態があらわれており、右建物はおよそ七年もしくはこれを若干超える年月の経過によつて借地法第二条にいう朽廃の状態に至るべきものと推認される。<中略>

ところで、地上建物の朽廃によつて借地権の消滅すべき場合において、右建物に既に朽廃の徴候が明らかに現われており、しかも、かなり近い時期に朽廃に至るべきものと予測しうるようになつているときは、借地人が右建物を取りこわし新たな建物を建築しても、借地法第七条による更新がなされる等の特段の事情のない限り、改築前の建物の朽廃すべかりし時期に借地権は消滅することになると解される。

そして、かような場合、一般に、地主は借地権の消滅を期待していると考えられるので、借地人のなす地上建物の全面改築につき、地主の意思に反しその承諾に代わる許可の裁判をし、右地主の期待もしくは利益を奪うのは相当でないといえる。すなわち、借地法第八条の二第四項により、建物の朽廃による借地権の消滅が間近いという事情を考慮し、原則として許可申立を排斥すべきものと考えられるのである。

もつとも、建物の朽廃ということは、何時かは必ず生ずる現象といえるのではあるが、将来朽廃に至るべき時期についての予測は確実になされ得ることではない。その時期が例えば三、四年後というようなものであれば別であるが、それがかなり遠い将来に属すると見られる場合には、その時期の予測も困難を加えるのであつて、建物の朽廃が必ず生ずる現象であるということから、常に前記のように借地権の消滅に関する地主の期待もしくは利益のみを中心にことを考えるのは、必ずしも妥当でないといわねばならない。かように考えると、建物の朽廃すべき時期が極く近い将来に属する場合は別として、地主において借地権の消滅を期待するにつき相当な事由がないときは、事情に応じ建物の改築による地主の不利益を財産上の給付によつて十分に補償して改築の許可をするを相当とする場合もあると考えられる。

そして、前述したところによると、本件において建物朽廃の時期はそれ程切迫しているともいえず、また事柄の性質上前判示の時期よりも朽廃の時期がさらに延びる可能性がない訳でもないので、本件についても上記のような考慮を払う余地がないではないと考えられる。しかし、証人松岡秀一及び申立人、相手方各本人の供述並びに甲第一号証、乙第四号証によると、相手方は七八才の老齢の寡婦で三男二女があり、七、八年前までは本件土地の隣にある長男秀一方に同居していたが、家族数等の関係もあつてそこばかりに居ることもできず、他に間借りをしたり二男、三男の所に同居したりして暮していること、また相手方の長女キヨ(五一才)は精神薄弱(病名白癡)で自らの身の廻りの始末も十分にできない有様であり、相手方と同様兄弟の家庭を転々として世話になつていること、現在相手方は二男の篠塚方の貸間の一室に居住し、長女キヨは前記秀一方の居宅の二畳間で起居していること、相手方には本件土地及びこれに隣接する秀一方の建物の敷地以外には格別の資産がないので、かねてから本件土地で長女キヨともに暮すことを切望し、建物の朽廃による土地の明渡に期待し、昭和三七年一月には、従来契約書のなかつた本件賃貸借につき増改築禁止の条項を記載した契約書の差入を求め(甲第一号証)、現在においてはひたすら右土地の使用できる日を待つていることを認めることができる。かような事情を考慮すると、たとえ財産上の給付によつて相手方の損失を償う方法をとることとしても、なお本件改築を許可するのは相当でないというべきである。<以下略>(安岡満彦)

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